1-5『アンデッドとの戦い・後編』
村の中心
ある家屋の地下室
碧明の戦士「ん…んん?どこだここ…はっ!」
?「気がついた?」
碧明の戦士「だ、誰だ!あ、あれ…?手が、縛られてる?」
?「残念だったわねぇ、せっかくがんばったのに。
でも、おかげでいいデータが取れたわ。」
碧明の戦士「誰だよお前!勇者はどこだ!?っていうかあたしをどうするつもりだぁ!」
?「あの勇者様と娘がどうなったかは私にもわからないわ。
勇者様の魔力が感知できなくなった所を見ると、
逃げ出したか、それともわたしのアンテッドに殺されたか…
そうなると娘もまず生きてないわね。」
碧明の戦士「そ、そんな…そんなことあるかぁ!勇者は無敵だぞぉ!」
?「うふふ、元気ねぇ、それになかなか健気だこと。
いいわぁ、良質な研究材料になりそう。」
碧明の戦士「うう〜、何をわけわかんないことを!」
?「そのうちわかるわ、まあ、今はおとなしくしててね。」
碧明の戦士「あ、待て!…くっそぉ、勇者〜!」
村の入り口
アンテッドA「おおおーー…」クチャクチャ
アンテッドB「おおおーー…」クチャクチャ
グォォォォォ!
アンテッドA「おおーー…びゃっ!」グチャッ
アンテッドB「お゛っ!?」ゴチャッ
ゴォォォ!
82車長「跳ね飛ばしたか今!?」
自衛「気にしてる場合じゃねぇ、それより周囲に気を張れ。」
衛生「後ろ見てみろ、あいつら…鹿の死体を貪ってたみたいだ…」
偵察「おえ…」
自衛「…まず、勇者が戦士とはぐれた場所まで向うぞ。
あいつらが出たら、指揮車に近づけるな!」
82車長「了解。」
自衛「状況開始だ。」
指揮車は道を突き進み、自衛たちは車上から指揮車の周囲を警戒する
偵察「っていうかよ、はぐれた所にあのねーちゃんが残ってると思うか?」
自衛「それ以外目星がつかねぇからな、にしても…
さっきの団体さんはどこいっちまったんだろうな…?」
82車長「定時で上がったんじゃねぇか?俺達と同じ公務員なんだよ。」
自衛「だといいがな…」
偵察「自衛隊に定時なんてあって無いようなもんだ…」
指揮車はやがて広場へと出る
偵察「うげ…」
82車長「うじゃうじゃいやがるな…」
広場には30体以上の村人のアンデッドがうごめいていた
君路の勇者「切りこむか?」
自衛「いや、こっちでやる…」キンッ
自衛は手榴弾をアンデッドの中心に投げ込む
ボガァッ!
アンデッドC「あ゛あ゛ーーッ!」
アンデッドD「あ゛っ!」
程よく密集していたアンデッド達はみごとに吹き飛んだ
自衛「残った奴を片付けろ!82操縦手、前進を続けろ!」
82操縦手「了解。」
衛生「右に一体!」ダーン
82車長「端のほうに残ってる、掃射する。」ドドドドド
偵察「今ので敵さんも気付いただろうな…」
自衛「目標地点まで急ぐぞ、警戒を怠るな!」
指揮車は前進を続ける
82車長「おい、前方見ろ。きやがったぜ…」
前方からアンテッドの群れが現れる
衛生「えーと、何体いるんだ…」
偵察「数えるだけ無駄だ、それより上見ろよ…」
上空を灰色の物体が飛行している
君路の勇者「ガーゴイルか…!」
偵察「割と月明かりではっきり見えるもんだな。」
自衛「さっきよりは少ない、勇者!上は任せていいか?」
君路の勇者「問題ない!」ダッ
勇者は上空へと跳躍した
自衛「良し、地上、正面に集中しろ!突破口を開く!」
82車長「ぶっ放すぞ!」
ドドドドドドドド!
指揮車のキャリバー50がアンデッドの集団に向けて火を吹く
アンデッド集団「あ゛っ!」バシュッ
「お゛げっ!?」ビシャッ
「びゃっ!」グシャッ
偵察「路地からも来たぞ!」
自衛「指揮車に近づけるな!」ダダダ
アンデッドE「あ゛あ゛!」ブシュッ
衛生「左!再装て…」
ガシャーン!
衛生「おわっ!?なんだ今の!?」
家屋の一つで土煙が上がる
自衛「勇者が仕留めたガーゴイルだ、上は任せて大丈夫そうだな。
行け!止まるな!」
ゴォォォォ
偵察「連中、追いかけてくるぜ!」
自衛「追いつけやしねぇ。後ろは足止め程度でいい、前に集中しろ!」
指揮車は残りのアンテッドを退け、前進を続ける
君路の勇者「っと!」ダッ
勇者が近くの屋根に着地し、車上へ戻ってくる
自衛「勇者、戦士とはぐれたのはこの先って言ったよな?」
君路の勇者「ああ、その角を曲がって少し行けば十字路がある。」
自衛「よーし、急ぐぞ!」
十字路
ゴォォ…
82車長「操縦手、停車しろ…ここだな?」
自衛「とりあえず辺りの家屋を調べる。偵察、お前は指揮車を守れ!」
偵察「了解。」
自衛「行くぞ。」
勇者、自衛、衛生の三人は角の民家へと入る。
君路の勇者「…ひどい。」
衛生「荒れ放題だな…」
自衛「とにかく隈なく探せ、何か手がかりを…」
オオオオオーー…
衛生「!?」
自衛「今のは…チッ!」
自衛は十字路へと出る
自衛「今のどっちから聞こえた!?」
82車長「北の方角だ、割と近いぞ!」
自衛「衛生、俺は左の家屋を調べる!」
衛生「了解!」
自衛は道を横切り、別の家屋へと入る
自衛「くそが…こっちもひでぇ散かり様だ…!」
自衛は屋内を漁るが、手がかりらしき物はみつからない
自衛「次だ。」
自衛は再び十字路へ出る
82車長「自衛、奴らが着た!十字路の北に見える!」
アンデッドF「オオオオオーー…」
アンデッドG「オオオオオーー…」
自衛「近寄せるな、時間を稼ぐんだ!」
82車長「急げよ!」ドドドドド
自衛はさらに別の家屋へ飛び込む
自衛「げほっ!埃だらけじゃねぇか!」
衛生「士長、まずいです!反対からもアンデッドが!」
自衛「マジかよ!勇者は?」
衛生「勇者は最後の家屋を調べています!」
自衛「よし、お前はこっちを手伝え!」
自衛と衛生は家中をひっくり返したが、結局手がかりらしき物は見つからない
衛生「何もありません!」
自衛「仕方ねぇ、引くぞ!」
家屋を飛び出し指揮車へと向う
反対の家屋からは勇者が飛び出してきた
82車長「急いでくれ!」ドドドドド
数体のアンデッドが指揮車の間近まで迫っていた
偵察がショットガンでそれを払っている
偵察「近寄るな!」ボンッ
アンデッドF「あ゛っ!」ボシュッ
自衛「よお、大人気だな!」
偵察「冗談はよせや!早く乗れ!」ボウッ
自衛「衛生と勇者は中に乗れ!」
82車長「82操縦手、出す準備をしろ!」
82操縦手「はい!」
82操縦手は9mm機関拳銃での射撃をやめ、操縦席へと引っ込む
自衛「っと、やべえぞ、四方からきやがる!」
82車長「誰だよ定時退勤とかいったのは!」ドドドドド
偵察「お前だろボケが!82操縦手、はやく出せ!」
82操縦手「どっちに!?」
自衛「どこでもいい、こっから離れろ!」ダダダ
指揮車はアクセル全開で急発進する
82操縦手「大群に突っ込みますぜ!?」
自衛「轢き殺せ!かまわねぇ!」
指揮車はアンデッドの大群に突っ込み、突き進む
ドガッ グチャッ
アンデッドG「おーー…」ガシッ
偵察「おわっ!?」
一体のアンデッドが指揮車の側面にしがみつく
自衛「糞が!」ダンダンダン
アンデッドG「お゛っ!」ブシッ
弾丸が命中しアンデッドの頭が爆ぜる
自衛は今だしがみつく胴体を蹴落とした
自衛「ここから離れろ、全速力だ!」
グォォォォ!
自衛は指揮車内へ移る
自衛「っと、全員無事か?」
衛生「大丈夫です、けが人は今の所いません。」
自衛「しっかし、結局収穫はなしか…」
君路の勇者「いや、一つだけあったよ。」
勇者の手に持った巨大な斧を軽く掲げて見せる
自衛「それは、確か戦士が持ってた斧か?」
君路の勇者「ああ、最後に調べた家屋で見つけた、少なくとも一度はあそこに
逃げ込んだんだ…」
衛生「けど、それだけじゃどうしようも…」
村娘「あ!」
自衛「どうした?」
村娘「いえ、あの、ちょっと失礼します…」
村娘は斧に近づくと、指先で斧をなぞる
村娘「これ…」
君路の勇者「それは、魔法結晶の欠片か?」
自衛「魔法…結晶だ?」
君路の勇者「ああ、これは光の結晶の欠片だよ。」
衛生「光の結晶…」
君路の勇者「…あの、村で会った時にも思ったんだが
君達もしかして魔法を知らないのかい…?」
村娘「え!?」
自衛「ああ…」
衛生「正確には、我々の世界にも魔法って言葉はあるが、
あくまで創造上の物なんだ。」
君路の勇者「なんてこった…えっと、簡単に説明すると、さっき言った魔法結晶には
それぞれ炎なら炎、水なら水に関係した力が詰まってるんだ。」
衛生「で、その欠片は光の力を宿してると?」
君路の勇者「そういうことになる、欠片だから微々たるものだけど。」
自衛「…その話は後にしよう。で、その斧に付着してた欠片がどうした?」
村娘「これ、たぶん私に家にあった物です。」
君路の勇者「何?」
自衛「どうして分かる?」
村娘「この村にある魔法結晶は私の…村長の家で保管しているものだけなんです。」
君路の勇者「それがどうして戦士の斧に…?」
自衛「考察は後だ、村長の家の場所は!?」
村長の家
ゴォォォォ…
村娘「ここです!」
指揮車は門を越え、敷地内へと走り込む
自衛「他の家より広いな…」
偵察「本当にお嬢だったわけだ。」
村娘「そ、そんなんじゃ…」
君路の勇者「ともかく、ここに戦士がいるかもしれない…戦士!」バッ
自衛「あ、おい!」
衛生「どうしてこの世界の人間はすぐに飛び出して行っちまうんだ…?」
偵察「俺達も行こうぜ!」
村娘「あの!わ、私も…」
82車長「待った!あれ見ろ…」
82車長は門の先を示す
アンデッドH「おおおおおーー…」
アンデッドI「おおおおおーー…」
偵察「またあいつらか!」
自衛「これじゃ探すどこじゃねえぞ、先に入り口を塞ぐんだ!」
家屋内
君路の勇者「戦士!戦士―!どこだ…!」
勇者は屋内を探し回る
君路の勇者「!、この扉は…?」
ギィィ…
君路の勇者「地下への階段か…よし…」チャキ
勇者は剣を構えなおし、ゆっくりと階段を降りる
やっとのことで階段を降りるも、地下は真っ暗だった
君路の勇者「暗いな、くそっ…」
碧明の戦士「また来たな!おい、こっからだせぇ!」
君路の勇者「!?」
碧明の戦士「もっぺん言うぞ!出せ!ってか、この縄ほどけぇ!」
君路の勇者「その声…!」ボッ
勇者は自分の手のひらに魔法で小さな炎を出した
碧明の戦士「うわっ!いきなり灯りを…って!?」
君路の勇者「戦士!やっぱり君か!」
碧明の戦士「ゆ、勇者!?な、なんで…!?」
君路の勇者「なんでって…助けに来たに決まってるだろう…」
碧明の戦士「あ、そっか…」
君路の勇者「とにかく、ここから逃げるぞ!」
?「あらー、感動的なご対面だこと。まるでおとぎ話みたい。」
君路の勇者「!?」バッ
碧明の戦士「ぬあっ!お前!」
?「うふふ、ごめんなさい、お邪魔しちゃって。」
君路の勇者「…誰だお前は…!」
魔術師「あら、私としたことが…
申し送れました、私、魔術師と申しますわ、勇者様。」
魔術師は纏っているローブの端をスカートのようにつまみ、お辞儀をする
君路の勇者「…戦士をここに拘束したのはお前か?」
魔術師「ええ、私の作ったアンデッド達を相手に、思いのほか奮闘してくれましたので
ぜひともサンプルにと。」
君路の勇者「!?、なにを…まさかこの村の有様も、お前の仕業だというのか!?」
魔術師「あらあら、そんなに怖いお顔をなさらないで。
魔術を扱う者としての好奇心を実践したまでですわ?」
君路の勇者「黙れ!何が好奇心だ!人を犠牲にしてまで行っていい所業じゃないぞ!」
勇者は怒りを込めて言い放ち、魔術師に剣を向ける
魔術師「うふふ、さすがですわ勇者様。あなたの前進から漲る魔力と怒気…」
魔術師は舌先で自らの下唇を軽く舐める
魔術師「あなたもいいサンプルになりそう…」
君路の勇者「ふざけるなーーッ!!」グァァ
勇者は魔術師に切りかかる
ガキィィィン!
しかし、勇者の斬撃は突如現れた物体により止められた
君路の勇者「なっ!?」
ガーゴイルA「ギャァ、ギャァ!」バッサバッサ
魔術師「ふふふ、加えてその力強さ…すばらしいわ…」
君路の勇者「ガーゴイル…!これも貴様の!?」
魔術師「ええ、でもこの子達は他のガーゴイルちゃんとは違いますわ。」
君路の勇者「この子達?、…!!」
勇者は殺気を感じ後ろへ跳躍する
ドガァァァ!
次の瞬間、天井を突き破り、別のガーゴイルが突っ込んできた
ガーゴイルB「ギャァ、ギャァ!」
君路の勇者「なんてやつだ!」
魔術師「この子達は私の魔力を媒体にしていますから、他の子達より強力ですわよ?」
ガーゴイルB「ギャァァ!」ブンッ
ガーゴイルは翼で勇者を攻撃する
君路の勇者「危ない!」バッ
横に飛んだ勇者目掛けてガーゴイルは突進する
魔術師「ここで暴れまわると、身動き出来ない戦士ちゃんが大変なことになりますよ〜?」
君路の勇者「く…上だ!」バッ
バガァン!
勇者は跳躍し、ガーゴイルとは逆に地下室の天井を突き破り突進を回避
さらに一階、二階の天井を突き破り、そのまま夜空へと飛び上がる
勇者を追い、ガーゴイルたちが地下室から飛び上がってくる
君路の勇者「来るか…!」
ガーゴイルはさらに一匹増え、三匹のガーゴイルが勇者を空中で囲む
ガーゴイルA「ギャァァァ!」
一匹のガーゴイルが勇者向けて飛び掛る
君路の勇者「来い!」バッ
偵察部隊はガラクタをかき集め、どうにか入り口にバリケードを構築した
アンデッドH「おおおーー…」ガンガン
アンデッドI「おおおーー…」ガンガン
バリケードの向こうではアンデッドが暴れる音が聞こえる
82車長「どうするよこれ、本隊ならともかく俺達だけであれを
全滅させるのはちょっと難だぞ。」
衛生「携帯放射器を持ってくるべきでした。」
自衛「おいねーちゃん、ここになんか大きな炎を上げられるような物はないか?」
村娘「え!?わ、わたしじゃそんな大規模な魔法は使えません…!」
自衛「別にあんたに炎を上げてくれってたのんだわけじゃねぇよ…
そうじゃなくて、ガソリンとか油とか可燃性の物はないのか!?」
村娘「がそ…?」
衛生「ガソリンなんてあったら苦労しませんよ…」
村娘「がそりん…っていうのはわかりませんけど、油なら料理や食べ物の加工に
使うものが…」
自衛「そいつはどこに?」
村娘「離れの倉庫の壷の中に…」
バガァン!
村娘が言いかけたと同時に、家屋から何かが飛び出した
村娘「ひぇ!?」
偵察「なんだぁ!?」
さらに続いて、大きな物体が三体飛び出す
衛生「あれ…ガーゴイルですよ!」
自衛「最初に飛び出したのは勇者か…家の中でなんかあったな…!」
村娘「まさか…お、お父さん!お母さん!」ダッ
82車長「あ、おい!」
偵察「俺が追う!」
駆け出した村娘を、偵察が追って走る
自衛「衛生、油をここまで持ってくるぞ!指揮車はここの見張りを頼む!」
ドカァ!
君路の勇者「ぐぁぁ!」
勇者はガーゴイルの羽に吹き飛ばされる
ガーゴイルB「ギャァァ!」
君路の勇者「くっ、舐めるな!」
ドガッ!
ガーゴイルB「グェェ!」
背後から襲い掛かったガーゴイルを蹴り飛ばし、
その勢いで正面のガーゴイルに切りかかる
君路の勇者「はぁぁぁぁ!」
ガーゴイルA「ギャッギャ!」
しかし、勇者の斬撃はまたしても弾かれる
君路の勇者「くっそ…」バッ
ドカッ!
君路の勇者「ぐぁぁ!?」
攻撃後、隙のできた勇者を別のガーゴイルの翼が襲った
碧明の戦士「勇者ぁ!」
地下室の屋根の穴からもそれははっきりと見えた
魔術師「さすがの勇者様の三匹相手は苦しいみたいねぇ、
わざわざガーゴイルちゃん達の得意な空に出ず、
あなたを見捨ててここで戦えばよかったのに。」
碧明の戦士「くっそぉ、この卑怯者!」
魔術師「本当に健気なのねぇあなた、大切な勇者様を誰かに傷つけられるのが
そんなにイヤ?」
碧明の戦士「当たりまえだろぉ!」
魔術師「ふふ」
魔術師は妖艶な笑みを浮かべると、小さな包みを取り出す
碧明の戦士「な、なんだ?」
魔術師「これをあなたに試して見るのもいいかもしれないわ。」
碧明の戦士「な、なんだよ、何する気だ!」
魔術師「これがなんだかわかる?ここの人たちをアンデッドにした薬よ。」
碧明の戦士「な!?」
魔術師「ただこれは、より服用者の身体能力を反映するよう改良してあるわ、
あなたに使ったらどうなるかしら?」
魔術師はナイフを取り出し、ゆっくりと戦士へ近づく
魔術師「勇者様を傷つけられたくないなら、あなた自身が手を下せばいいわぁ」
碧明の戦士「ふ、ふざけるな!よ、よせ…来るなぁ!」
魔術師「ふふふ、怯えた顔もすてきよ…」
魔術師はゆっくりと戦士に手を伸ばす
村娘「そこの人、止まって!」
魔術師「!」
碧明の戦士「…へ?」
声を上げたのは村娘だ、手には短剣が握られている
村娘「そのまま動かないで、刺しますよ…!」
村娘は短剣を構え、階段を降り、ゆっくりと接近する
魔術師「あらあら、今日はお客さんがいっぱいね。」スッ
魔術師は振り返る
村娘「う、動かな…え?」
しかし、動きを止めたのは村娘のほうだった
村娘「え…うそ……」
魔術師「あら?」
村娘「………おねぇ…ちゃん?」
魔術師「あら?あらあら…ひょっとして村娘ちゃん?
あらー、勇者様と一緒に逃げてた娘って村娘ちゃんだったのねー。
大きくなってて遠目には気がつかなかったわ〜。」
魔術師は純粋に再会を喜ぶように話す
しかし、村娘は違った
村娘「なんで…お姉ちゃんは旅に出て…旅先で病気で死んだって…」
魔術師「あら〜、村娘ちゃんにはそう教えてたのね〜。
まぁ当然か、姉が邪法に触れて勘当されたなんて言えないものね〜。」
村娘「勘当…邪法って…?」
魔術師「ああ、分かりやすくするために邪法なんて言葉を使ったけど〜
本当は全然そんなことないの、とってもすばらしい物なのよ?」
村娘ちゃんも見たでしょう、村の人たちを?
あの人たち、今はみーんなお姉ちゃんの言うとおりに動いてくれるのよぉ?」
村娘「…どういうこと…」
魔術師「村の人たちをガーゴイルちゃん達で襲った後、
お姉ちゃんの作った薬でアンデッド化してもらったの〜。
す・る・と、なんとガーゴイルちゃんたちと同じようにお姉ちゃんの魔力で
命令を送れるようになるので〜す。」
村娘「うそ…そんなことのために…?…お父さんとお母さんは…!?」
魔術師「ああ、パパとママは二階で、お・や・す・み・中よ、
でも心配しないで、すぐにまた会えるから…まあ、お話するのはちょ〜っと
無理かもしれないけど。」
魔術師は頬に指をあて、悪びれも無く言った
村娘「く…う…あああああー!!」ダッ
村娘は短剣を逆手に持ち替え、魔術師目掛けて切りかかる
魔術師「おおっとぉ。」ヒラッ
魔術師はそれを避けるが村娘は間髪いれずに再び切りかかる
村娘「あぁぁぁぁ!」バッ
魔術師「あらあら〜、パパの短剣術は村娘ちゃんが受け継いだのね〜、
太刀筋がそっくりだわ〜。」
村娘「うぁぁぁぁ!」ダッ
魔術師「でもね〜」グッ
村娘「っあ!?」
村娘は短剣を持つ右手を掴み上げられ、そのまま魔術師に抱き寄せられる
村娘「そんなに興奮してちゃぁ、お姉ちゃんは倒せないわよ?」
魔術師は村娘の手から短剣を取り上げる
そして、村娘に顔を近づける
村娘「…ぅ…あぁ…!」
魔術師「かわいそうに、村娘ちゃん…つらかったのね〜。
ならお姉ちゃんが助けてあげる〜、すぐにパパやママといっしょになれるわ〜。」
グォッ!
偵察「だっ!!!」
ゲシャッ!
魔術師「がっ!?」
次の瞬間だった
魔術師に真横から偵察の膝が叩き込まれ、二人はそのまま吹っ飛び、転がった
村娘「!?」
碧明の戦士「え!な、何!?」
先に偵察が起き上がり、魔術師にショットガンを突きつける
村娘「え、け、けいさつ…さん?」
偵察「偵察だ、嬢ちゃん!端っから床の大穴使って降りりゃぁよかったぜ、
思いのほか広くて迷うわ、暗くてぶつけるわで散々だ!」
魔術師「ぐ…本当にお客さんの多い日ね…怪しい格好して、強盗さんか何かかしら…?」
偵察「うっせぇ、不審者はお互い様だろうが!薄気味悪いねえちゃんだぜ…!」
魔術師「うふふ…」
魔術師は痛みを堪えつつ、不適に笑う
そして魔術師は右手を動かす
村娘「偵察さん!」
偵察「!」
村娘の声で振り返る
ガーゴイルD「ギャァァ!」
偵察の背後にはガーゴイルが召還されていた
偵察「やばっ!」
ガーゴイルの翼が偵察を打ち払おうと迫る
ボウッ!
ガーゴイルD「ギェッ!」ドガッ
しかし、偵察の発砲のほう一瞬速く
ガーゴイルは吹き飛び、胴体から上下に真っ二つに砕けた
魔術師「ッ!」
偵察「危ねぇ!スラッグ弾にしといてよかったぜ!」
魔術師「ガーゴイルちゃん!」シュッ
魔術師は右腕を振り、別のガーゴイルを召還する
偵察「うぉッ!?」ボウッ
ガーゴイルE「ギュァッ!」
偵察「これはあれか、召還ってやつか…?」
魔術師「んも〜!ガーゴイルちゃ…」
偵察「いい加減に知ろ!」ボウッ!
バギィッ!
魔術師「ッ!?…あぁぁ…!!」
スラッグ弾が魔術師の右腕に命中し、関節より下が吹き飛ぶ
村娘「!…うぅっ!」スッ
村娘は思わず魔術師から目を背けた
魔術師「っ…ふふ、ずいぶん変わった武器を持ってるのね、強盗さん。」
右腕からボタボタと大量の血を流しつつも、魔術師は笑みをうかべる
偵察「強盗でも警察でもねぇ!偵察だ!にしたって、なんつーねえちゃんだ…!」
魔術師「う〜んでもでも〜、強くても普通の人なのよね〜、
サンプルには不適格かな〜?」
偵察「ああ?なんかわかんねぇけど、気色悪りぃこと考えてんなお前?」
魔術師「うふふふ〜」
偵察の問いかけに、不気味な笑みを浮かべる魔術師
村娘「……おねぇちゃん…いい加減にして…!」
偵察「あぁぁ!?この、パッパラパーねえちゃん、嬢ちゃんの姉貴なのか!?」
魔術師「あらあら、怖い顔しないで村娘ちゃん。」
村娘「なんでなの…これだけのことをしておいて、どうして笑っていられるの!?
おかしいと思わないの!?」
魔術師「あら〜わからない?村の人たちを見てみて?おねえちゃんが居たころはみ〜んな、
不安と不満をかかえながら生活してたのよ〜、今もたぶん同じだったんじゃない?
それに、毎日他人同士ギスギスしててほんとやんなっちゃうって感じ?」
魔術師「でも〜、今はおねえちゃんの薬の力で、み〜んな悩みも不安もなくなって、
何に対しても一致だんけ〜つ!ね、すばらしいでしょう〜?」
魔術師は傷ついた身でありながら、子供のように楽しげに話す
村娘「…」
魔術師「今はまだ、アンデッドになってもらう前にちょ〜っとねむねむしてもらう
必要があるけど、いずれは空気感染可能にして、そんな問題もばっちり解決!
いずれは世界中のみんながアンデッドになって〜、戦争も憎みあいも
なくなって素敵な世界になるわ〜。」
碧明の戦士「うぇぇ…」
偵察「…考えは立派かもしれねぇが、辿り着いた手段がこの有様かよ…
ねーちゃん、てめぇの脳みそ確実に虫食ってるぜ!」
魔術師「だって〜、人間のまんまじゃ仲良くするにも限界があるもの?
アンデッドになれば〜…」
村娘「もういい!!!」
村娘は一喝すると、落とした短剣を拾う
偵察「嬢ちゃん?」
村娘「お姉ちゃんはずっと前に死んだ…あなたはお姉ちゃんじゃない!」ダッ
言い切った村娘は、魔術師向けて突貫する
魔術師「おっと。」
魔術師は上に飛び、そのまま一階へと逃げる
村娘「!」
村娘はそれを追い、天井の穴の端にしがみつき、よじ登っていった
碧明の戦士「えっ!?」
偵察「…ありえねぇだろ」
あっけにとられていた偵察だったが、すぐに二人を追いかけようとする
碧明の戦士「だ!ま、待って!これほどいてって!」
偵察「え、ああ、悪りぃ!」
一階
魔術師「うふふ〜、かっこいいわ村娘ちゃん。」
一回で魔術師と村娘は戦いを続けていた
村娘「うぁぁ!」バッ
魔術師「おっと」
負傷している身にも関わらず、魔術師はかろやかに短剣を避ける、しかし
村娘「捕まえた!」
魔術師「え、きゃあ!」
魔術師がよけた瞬間、村娘は魔術師のローブを掴み、そのまま床に引き倒した
村娘はそのまま倒れた魔術師の頭をおさえ、短剣を突きたてようとする
魔術師「いてて…なかなか強引になったわね、村娘ちゃん?」
村娘「…ッ!」
村娘は短剣を突き立てようとする、しかし…
魔術師「あら、どうしたの?絶好のチャンスよ〜?」
村娘「……できない…」
村娘は短剣を下ろし、へたり込み泣き出してしまう
魔術師「うふふ、やっぱり村娘ちゃんね〜」
魔術師は起き上がると、村娘を抱きしめる
魔術師「いい子、いい子」
魔術師は一度村娘の頭を撫でると、村娘の手から短剣を取る
魔術師「大丈夫、おねえちゃんが大切にしてあげる」
村娘「え、えぅ…」
村娘は抵抗せず、静かに涙を流す
魔術師は村娘の首に短剣をあてる…
ドスッ
刃先が肉に突き刺さる音、ついで鮮血が噴出す
魔術師の首から
村娘「…ぅ…え?」
魔術師「…ぇ…な、が…」
魔術師の首から銃剣が引き抜かれ、魔術師は倒れた
偵察「聞いてなかったのか…嬢ちゃんの姉貴は死んだ…」
偵察は床に倒れた魔術師の亡骸向けて言った
村娘「偵察…さん…」
偵察は開いたままの魔術師の亡骸の目を閉じる
偵察「だが、嬢ちゃん…あんたが手を下さなかったのは…たぶんそれでいい…」
村娘「…う…は…い…、う…うぁぁぁぁぁぁぁん!」
偵察「………」
上空
君路の勇者「っつ、ハァ…ハァ…防戦一方だ…このままじゃ…!」
ガーゴイルA「ギャァァ…」
ガーゴイルB「ギャァ…」
しかし、先程まで活発だったガーゴイルの動きが、急に鈍くなる
君路の勇者「なんだ…罠か…?」
ガーゴイルC「ギャァァ…!」
ガーゴイル達は鈍くなった動きでも、今まで道理勇者に襲い掛かる
君路の勇者「来る…いや、これなら!」
勇者は迫り来るガーゴイルに向けて剣を振るう
ズバァッ!
ガーゴイルC「ギェエエ…!」
ガーゴイルは真っ二つに切り裂かれ、地上へと落ちていった
君路の勇者「急に手ごたえが、あの魔術師に何か…?とにかく、これならいけるぞ!」
敷地の入り口
バゴォ!
アンデッドH「おおおーー…」
アンデッドI「おおおーー…」
アンデッド達はバリケードを破り、敷地内へと侵入してきた
衛生「来ましたよ…!」
自衛「引き付けろ、まだだ。」
入り口周辺がアンデッドの集団で溢れかえる
自衛「よっしゃ、今だ!」
自衛の合図と共に、火の尽のついた木片がアンデッドの集団へと投げ込まれる
アンデッド達の足元には油が敷き詰められており、火は油へと燃え移る
ボァァァァ!
油に移った火は大炎上を起こし、アンデッドたちを包み込んだ
アンデッドH「あ゛あ゛あ゛ーー…!!」
アンデッドI「あ゛あ゛あ゛ーー…!!」
アンデッド達に燃え移ったことにより、炎はさらに大きくなり、
敷地外にいるアンデッドたちにも燃え移る
82車長「すげぇ…」
82操縦手「あ、アンデッドが炎の中から…」チャキ
自衛「いい、撃つな…焼け死ぬ。」
炎の中から数体のアンデッドが出てきたが、その場に倒れるとやがて動かなくなった
ヒュゥゥゥ…
君路の勇者「っと!」ダッ
勇者が上空から戻ってきた
82車長「おっ、勇者の兄ちゃん。やばそうに見えたがなんとかなったのか?」
君路の勇者「ああ、正直危なかったが、急にガーゴイル達の動きが鈍くなってね、
それでなんとか助かったよ。」
衛生「自衛士長、偵察士長たちが。」
衛生が家屋の方を示す
家屋内から偵察、村娘、戦士の三人が出てくるのが見えた
戦士は二人に両脇から支えられている
偵察「終わったか?」
自衛「ああ、そっちもみたいだな。」
偵察「ああ…」
君路の勇者「戦士!怪我は?」
勇者は偵察と村娘から戦士の身を引き受け、支える
碧明の戦士「あー、なんとか大丈夫…」ビッ
君路の勇者「あの魔術師はどうなったんだ?」
村娘「…」
偵察「死んだよ」
君路の勇者「そうか、それでガーゴイルたちが…」
偵察「家の中に魔術師と、嬢ちゃんの親御さんの亡骸がある。弔ってやらねぇと…」
自衛「…わかった、こっちで回収する。お前らは休んでろ。」
偵察「頼む…」
敷地内に村娘の両親と魔術師の亡骸が運び出される
地面にもう一度油を撒き、その上に三人の亡骸をねかせ、衛生が油に火をつけようとする
村娘「あ、待ってください」
村娘は衛生を制止すると、三人の亡骸へと近づいた
父親の手に自分の短剣を持たせ、母親の頬に口付けをする
そして魔術師の亡骸へと近づく
村娘「あ…」
村娘は魔術師の首元から下がるペンダントに気付いた
それは、彼女たちが幼い頃に両親から渡された物だ
村娘の首からも色違いの同じものが下がっている
そして、魔術師の持つペンダントはほとんど劣化していなかった
村娘「お姉ちゃん…本当は村に…家に帰ってきたかったの?」
村娘は魔術師の頬を軽く撫でる
村娘「…わからないや…」
村娘は魔術師の首から下がるペンダントをはずし、変わりに自分の首から下がるペンダントを
魔術師の首に付け直した
村娘「……すみません、大丈夫です。」
村娘は魔術師から離れる
衛生は油に火をつけた
ボォォ!
三人の亡骸が炎に包まれる
自衛「…よし、撤収するぞ。」
82車長「ああ?ちょっと待て、この村ほっといていいのか?」
自衛「俺達だけでこれ全部片付けられると思うか?」
82車長「…無理、っつーかゴメンだな…」
君路の勇者「月橋の街まで行ってこのことを伝えよう。
そうすれば、この村に調査隊が派遣される。」
自衛「だ、そうだ。俺達はここで引き上げだ。」
自衛たちは撤収準備にかかった
村娘「…」
村娘は炎を眺め続けている
偵察「…今のは手向けか?」
村娘「はい…」
偵察「…嬢ちゃんはここで休んでな。」
村娘「……ありがとうございます…」
村娘は亡骸が完全に燃え尽きるまで、炎を見つめ続けていた
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